2017年7月13日木曜日

トルストイの印度寓話16『狼と弓』

トルストイ少年少女読本[3] 子供の智恵 米川正夫 訳 河出書房 1946 昭和21年

トルストイの印度寓話16『狼と弓』
 猟師が弓と矢を持つて猟に行き、山羊を一匹しとめて、肩に擔ぎながら進んで行きました。その途中一匹の猪を見つけたので、猟師は山羊を抛り出して、猪に 矢を放ち、手傷を負はせました。猪は猟師に跳びかかつて、牙で裂き殺すと、自分もその場で死んでしまひました。一匹の狼が血の臭ひを嗅ぎつけて、山羊と、 猪と、人間と、弓の転がつてゐるところへやつて来ました。狼は喜んでかう考へました。『今度こそおれは腹一杯ご馳走にありつけるぞ。だが、みんな一度に喰 べてしまはないで、何一つ無駄にならないやうに、少しづつ喰べることにしよう。まづ固いものから平らげて、それからだんだんと柔らかい、うまさうなものを 喰べることにしよう。』
 狼は、山羊と、猪と、人間を嗅いでみて、『これは柔らかいご馳走だから後まはしにして、まづ一つこの弓に着いてゐる筋から平げよう。』かう言つて、狼は 弓弦を噛じりかけました。すると弦を食ひ切るが早いか、弓が急に跳ね返つて、狼の腹を打つたので、狼はそのまゝ息が絶えてしまひました。その時ほかの狼ど もがやつて来て、人間も、山羊も、猪も、狼も食つてしまひました。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1169127/15

露国民衆文学全書 第三編 ろしあ童話集  昇曙夢(のぼりしょうむ) 大倉書店 1919 大正8年
ろしあ童話集トルストイ物語16『狼と弓』
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/958849/19

春陽堂少年文庫 トルストイ童話集 昇曙夢 1932 昭和7年
トルストイ童話集童話篇16『狼と弓』
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1168514/14

The Complete Works of Count Tolstoy Volume XII.
Fables for Children 1869-1872
by Count Lev N. Tolstoy
Translated from the Original Russian and edited by Leo Wiener
Assistant Professor of Slavic Langauages at Harvard University
Boston Dana Estes & Company Publishers
II. ADAPTATIONS AND IMITATIONS OF HINDOO FABLES

16.THE WOLF AND THE BOW
A hunter went out to hunt with bow and arrows. He killed a goat. He threw her on his shoulders and carried her along. On his way he saw a boar. He threw down the goat, and shot at the boar and wounded him. The boar rushed against the hunter and butted him to death, and himself died on the spot. A Wolf scented the blood, and came to the place where lay the goat, the boar, the man, and his bow. The Wolf was glad, and said:
"Now I shall have enough to eat for a long time; only I will not eat everything at once, but little by little, so that nothing may be lost: first I will eat the tougher things, and then I will lunch on what is soft and sweet."
The Wolf sniffed at the goat, the boar, and the man, and said:
"This is all soft food, so I will eat it later; let me first start on these sinews of the bow."
And he began to gnaw the sinews of the bow. When he bit through the string, the bow sprang back and hit him on his belly. He died on the spot, and other wolves ate up the man, the goat, the boar, and the Wolf.
https://archive.org/stream/completeworksofc12tols?ui=embed#page/26/mode/2up

印度説話

Type180  TMI.J514.2

シャルマン物語 : 印度の教養  森畯二 訳 拓文堂  1942 昭和17年 (ヒトパデーサ)
シャルマン物語1.6『猟人と鹿と猪と犲』
 カタカ国に猟人で、名を鬼顔といふ豪の者がありました。ある日弓を小脇に、ビンジヤ連山に分け入つて間もなく鹿を射止めたが、この獲物を肩にかけての戻 りがけに、また恐しく大きな猪が眼にとまつたので、鹿を地べたに放りだして、早速ひやうと発(はな)つと狙ひ外れずばつたり猪は斃れました。しかし流石に 猛獣で、急所を射られても跳び起きて、天地の壊れるばかりな凄まじい叫びをあげながら鬼顔にむかつて来ました。鬼顔も弓を引きしぼつたが、死物狂ひの猪の ために八つざきにされて、伐りたふされた樹のやうに、筈矢(やなみ)のまゝその猪と一緒に最後を遂げました。そればかりではなく、ちようどそこに居た蛇も お相伴(しやうばん)をくつて踏み殺されてしまひました。
 昔から非業の最後を遂げさせるものは、水難、火災、山崩れ、飢渇に毒物と刃物三昧といつてゐるが、全くそのとほり。
 ほどなく此辺に餌をあさりに来た晩咆(ばんほう)といふ犲(さい)が、はからずも猟人と鹿と猪と蛇が、一緒にたふれてゐるのを見て、
 「けふは何といふ吉日だらう。おれのためにこんな御馳走がこゝに支度してあるとは思はなかつた。思はぬ不幸にでつかはすことがあるやうに図らず福運に巡 りあふこともあるものだ。運不運、吉凶、禍福はみな神様のおぼしめし。これはたつぷり三月分の食糧がある。猟人の肉がまアひと月、鹿と猪でそれがふた月、 蛇は明日の分だ。さしあたりの腹ふさげに弓についてゐる散れ肉や腹すぢを味つておかう。」
と、弓に触るか触らぬうちに、弾けた矢に胸を射ぬかれて、鞆音[ともね]も高く犲の命はなくなつてしまひました。

注: 
犲(さい): ヤマイヌのこと。

早速ひやうと発(はな)つと → さっそく、ひょうとはなつと
「ひょうとはなつ」 は、弓で矢を射る時の音

ヒトーパデーシャ―処世の教え   ナーラーヤナ 著 金倉 圓照  北川 秀則 訳 岩波文庫
Hito1.4『猟師と猪と欲張りなジャッカル』

世界童話大系 第10巻(印度篇) パンチャタントラ 松村武雄 訳 世界童話大系刊行会 1925 大正14年
世界童話体系Pan2.3『欲張りすぎた犲』
 ある山地(やまち)に一人の猟師が住んでゐました。
 ある日狩に出かけると、非常に大きな[野猪](ゐのしし)に出逢ひました。猟師はそれを見ると、弓に矢を番へて、耳もとまで引きしぼつて切つて放しまし た。野猪は大層怒つて、新月のやうに光りきらめく牙の先を、猟師の腹につき立てました。猟師はばたりと地に倒れて、息がきれました。しかし野猪も矢傷のた めに死んでしまひました。
 そこへ一匹の犲(さい)が通りかかりました。犲は死んでゐる猟師と野猪とを見て、大へん喜びました。
『何と運のいいことだらう。全く思ひがけない食物(くひもの)にありついたぞ。これから四五日が間充分命がつなげるやうに、少しづつ食べることとして、ま づ今日のところは、弓の弦を食つてやらう。』
 犲(さい)はかう考へて、先づ弓の端を口にくはへて、弦を食べようとしました。が弦を咬みきつたと思ふと、弓が烈しく刎(は)ね返つて、弓の[先端] (はし)が犲の上顎を貫いて、頭蓋の真中にぬつと突き出ました。犲はたちどころに死んでしまひました。

パンチャタントラ アジアの民話12 田中於莵弥・上村勝彦訳 大日本絵画
Pan2.03『猟師と猪と欲張りジャッカル』

カリーラとディムナ  菊池淑子 訳 平凡社
Kali03.2.1『欲張りな狼の話』

ラ・フォンテーヌ寓話 今野一雄 訳 岩波文庫
Laf08.27『オオカミと狩人』


ト ルストイの印度寓話対照表
トルストイの アーズブカ対照表
トルストイの アリとハト対照表