2017年7月10日月曜日

トルストイの印度寓話14『水の精と真珠』

トルストイ少年少女読本[3] 子供の智恵 米川正夫 訳 河出書房 1946 昭和21年

トルストイの印度寓話14『水の精と真珠』
 或る人が船に乗つて行く途中、高価な真珠を海へ落としました。その人は岸へ引き返すと、桶を持つて来て水をしやくつては、それを地面へこぼし始めまし た。三日間といふもの、根気よくせつせと汲んではこぼしてゐました。四日目に、海の中から水の精が出て来て尋ねました。
 『お前はなぜ水を汲んでゐるのだ?』
 男は答へました。
 『真珠を落としたから、それで水を汲み出してゐるのです。』
 水の精は尋ねました。
 『やがてもうやめるだらうな?』
 男は答へました。
 『海をすつかり乾してしまつたら、その時はじめてやめませう。』
 それを聞くと、水の精は海へ引換して、その真珠を取つてくると、男の手に渡しました。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1169127/14

露国民衆文学全書 第三編 ろしあ童話集  昇曙夢 大倉書店 1919 大正8年
ろしあ童話集トルストイ物語14『水神と真珠』

春陽堂少年文庫 トルストイ童話集 昇曙夢(のぼりしょうむ) 1932 昭和7年
トルストイ童話集童話篇14『水神と真珠』
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1168514/12

The Complete Works of Count Tolstoy Volume XII.
Fables for Children 1869-1872
by Count Lev N. Tolstoy
Translated from the Original Russian and edited by Leo Wiener
Assistant Professor of Slavic Langauages at Harvard University
Boston Dana Estes & Company Publishers
II. ADAPTATIONS AND IMITATIONS OF HINDOO FABLES

14.THE WATER-SPRITE AND THE PEARL
A Man was rowing in a boat, and dropped a costly pearl into the sea. The Man returned to the shore, took[Pg 25] a pail, and began to draw up the water and to pour it out on the land. He drew the water and poured it out for three days without stopping.
On the fourth day the Water-sprite came out of the sea, and asked:
"Why are you drawing the water?"
The Man said:
"I am drawing it because I have dropped a pearl into it."
The Water-sprite asked him:
"Will you stop soon?"
The Man said:
"I will stop when I dry up the sea."
Then the Water-sprite returned to the sea, brought back that pearl, and gave it to the Man.
https://archive.org/stream/completeworksofc12tols#page/24/mode/2up



仏教経典 

国訳大蔵経. 第41冊 国民文庫刊行会
仏本行集経 巻の第三十一 昔与魔競品(じやくよまきやうほん)第三十四
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仏、諸比丘に告げて云(のた)まはく、『汝諸比丘よ、至心(しいしん)に諦聴(たいちやう)せよ。我れ念ずるに、往昔(わうじやく)、一商人有り、海に入 りて宝を採らんとし、海内(かいない)にて、一の貴重なる摩尼(まに)の宝を得たり。其の値は正に百千両金に値す。得已(えをは)りて忽然として還(ま) た海中に堕す。時に、彼の商主、即ち一杓を持つて、大精進勇猛(だいしやうじんゆうみやう)の心を発(おこ)し、大海の水を抒(く)み、乾竭(けんけつ) せしめて摩尼宝(まにはう)を求めんと欲しぬ。時に海神天(かいじんてん)は、彼の人の、杓にて海水を抒み、将(もつ)て陸地に置くを見、見已(みをは) りて即ち是(かく)の如き念言(ねんごん)を作(な)す、『此の人や愚癡、智慧ある事なし。大海の水は無量無辺なり。其の人、云何(いかん)ぞ、杓を以 て、抒み陸地に置かんと欲する』。彼の海神、即ち偈を説きて言はく、
 『世間多く衆生輩(しゆじやうはい)あり、財利を貪らんが為めに、種種の為(わざ)をなすも、我れ今汝を見るに、大愚癡なること、更に、人の汝に過ぐる 者有る無し。八万四千旬の海を、今、杓を以て抒みて、乾かさしめんと欲す、困乏(こんぼふ)、徒らに自ら一生を喪(うしな)ひ、抒む所未だ多からざるに、 命便(すなは)ち尽きん。抒む所の水は毛渧(まうてい)の如く、此の大海は広くして甚深(じんじん)なり。汝、今、無智にて、思惟せず、耳 (にたう)を取つて、須弥と作さんと欲するごとし』。
爾(そ)の時、商主、復、海神に向ひて、偈を説きて言はく、
 『天神は、此く、不善の言(ごん)を為して、乃ち、我の、海を乾竭(けんけつ)するを遮らんと欲す。神、但、意を定めて、正に我れを観よ、久しからずし て、海を抒みて、当(まさ)に空しからしむべし。
仁、此に住して、長夜停(ぢやうやとど)まらば、是の故に、心、応(まさ)に大に憂悩(うなう)すべし。我は誓ふ精勤(しやうごん)の心退(しりぞ)か ず、必ず大海を竭(つく)して乾かしめん。
我が無価(むげ)の宝、此の中に堕つ、是の故に、大海の水を枯らすを要す、
水、若し、底を尽さば、還(ま)た宝を獲、得已(えをは)りて当に廻帰(ゑき)して家に向かふべし。』
 時に、彼の海神、是の語を聞きて、心に恐怖を生じ、是(かく)の如き念を作す、『此の人、是(かく)の如く、精進勇猛(しやうじんゆうみやう)ならば、 此の海水を抒(く)みて、必ず当(まさ)に[竭尽](つ)くすべし』。時に、彼の海神、是(かく)の如く念じ已(をは)りて、即ち、商主に、無価(むげ) の宝珠(ほうしゆ)を還(かへ)し、還し已(をは)りて、即ち、是の如きの偈を説きて言はく、
 『凡て人は須らく勇猛心(ゆうみやうしん)を作すべし、苦疲(くひ)を負担して、惓(けん)を辞する莫(なか)れ。
我れの是(かく)の如き精進力(しやうじんりき)を見て、失宝(しつぽう)を還して帰りて家に向ふを得しむ』。
 爾の時、世尊、偈を説きて言(のた)まはく、
 『精進は処処に心に称(かな)ふを得、懶惰(らんだ)は[恒常](つね)に大苦を見る。是の故に、勇猛の意(こころ)を勤発(ごんほつ)せよ、智人は此 を以て菩提に成(じやう)ず』。
 仏、諸比丘に告げ給はく、『爾の時の大商主を知らんと欲せば、即ち我が身是なり。時に、彼の商主、海に入りて、既(すで)に無価(むげ)の宝珠を得。得 て還つて復失(またうしな)ひしも、勇猛心を以て、還(ま)た宝を求め得たり。今日亦然り。精進を以ての故に、阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみやく さんぼだい)、七覚分(しちかくぶん)の道を得たり』。
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http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1210825/38

国訳大蔵経. 経部 第14巻 国民文庫刊行会
仏本行集経 巻の第三十一 昔与魔競品第三十四




類話

世界童話大系 第10巻(印度篇) パンチャタントラ 松村武雄 訳 世界童話大系刊行会 1925 大正14年
世界童話体系Pan1.12『おばしきと海』
 海に沿うた或る地方におばしきといふ鳥が一双 (ひとつがひ)棲んでゐました。牝の鳥は姙(はら)みました。児(こ)を生むときが近づくと、牝の鳥は牡の鳥に云ひました。
 『あなた、子供が生れる時が来ましたよ。どこか危なくないところを探して、私に卵を産ませて下さい。』
 すると牡の鳥は、
 『海ばたの此処がいいんだよ。ここで産むがいい。』
と云ひました。牝の鳥は、
 『ここは、満月の日に高潮がさします。そして猛(たけ)り狂う強い強い象でも持つて行つてしまひます。だからどこか海ばたを遠く離れたところを探さねば 駄目ですよ。』
と云ひました。すると牡の鳥は笑つて、
 『馬鹿なことを云ふものぢやない。海なんか何でもないよ。安心してここに卵を産むがいい。』
と云ひました。
 海はこれを聞いて、心の中で考へました。
 『小つぽけな鳥のくせに、いやに高慢だな。よしあいつの力がどんなに弱いものであるかといふことを思ひ知らしてやらう。乃公(おれ)が彼奴(あいつ)の 卵を奪つたら、彼奴(あいつ)は何が出来るだらう。』
 海がかう考へてゐるうちに、牝の鳥が卵を産みました。そして滋養になるものを探すために、あるとき卵のそばを離れますと、海がやつて来て、卵を持つて行 つてしまひました。
 牝の鳥は帰つて来て、卵をおいたところが空つぽになつてゐるのを見つけると、大層歎き悲しんで、夫に云ひました、
 『私は、海の水が卵を台なしにしてしまふから、海から離れたところに行かなくちやならぬと云つたでせう。だのにあなたは馬鹿に高慢ちきで、私の云ふとほ りにしてくれなかつたのです。』
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 すると牡の鳥はやつきとなつて、
 『いいよ、私は海の水を汲み乾(ほ)して、からからにしてやるから。』
 と云ひました。
 『馬鹿馬鹿しい。あなたに海と喧嘩が出来るものですか。』
と、牝の鳥が云ひました。
 『いや出来る。小つぽけなものでも、堅い決心さへあれば、強いものに勝つことが出来るよ。』
 牡の鳥はかう云つて、蒼鷺、鶴、孔雀、その他のいらんな鳥を集めて、海のために卵を奪はれたことを話して、
 『だから海をからからにしてやらうと思つてゐる。お前さんたちも加勢をしておくれ。』
と頼みました。すると鳥どもは、
 『いや私たちはあまり弱すぎるから、主人のガルダ(印度の宗教神話に現るる怪鳥)様にお話して、助を借りる事にしよう。』
と云ひました。そしてみんなでガルダのところに行つて、話をしますと、ガルダは大層怒つて、
 『よし、わしが海を汲み乾(ほ)してやる。』
と云つてゐるところへ、天界のヴィシュニュー神(がみ)から使が来て、
 『神のお召しです。早くお出かけなさい。』
と伝へました。しかしガルダはぷんぷんして、
 『私の眷属が海からひどい目にあはせられるやうでは、私は神にお仕へしても何にもなりませんよ。天へ帰つて、私の代りに他のものを家来にお使ひなさるや うに云つておくれ。』
と答へました。
 ヴィシュニュー神は使の言葉を聞くと、自身で天界を降(くだ)つて、ガルダのところにいらつしやいました。そしてガルダから、海が鳥の卵を奪つたことを お聞きになると、海に対(むか)つて、卵をかへすやうにお云ひつけになりました。
 海はとうとう卵を返さねばなりませんでした。
 だから
 『敵の力を知らずして、之に対抗するものは。
  海がおばしきに屈せし如く、
  屈服を経験せざるを得ず。』
といふのです。

パンチャタントラ アジアの民話12 田中於莵弥・上村勝彦訳 大日本絵画
パンチャタントラ1.12『水禽と海』

シャルマン物語 : 印度の教養  森畯二 訳 拓文堂  1942 昭和17年 (ヒトパデーサ)
シャルマン物語2.9『鶺鴒と大海』

ヒトーパデーシャ―処世の教え   ナーラーヤナ 著 金倉 圓照  北川 秀則 訳 岩波文庫
Hito2.10『千鳥と海』

カリーラとディムナ  菊池淑子 訳 平凡社
Kali01.10『千鳥と海の代官』

サキャ格言集  今枝由郎 訳 岩波文庫 282


故事俚諺教訓物語 森脇紫逕 著 富田文陽堂 出版年月日  大正1
愚公山を移す。(列子)
 智慧がなくても、勉めて止まない時には遂にその目的を達することが出来るといふ事にたとへたのです。
 昔支那に愚公といふ九十近くの老人がありました。その家の前に太形(たけい)、王屋(わうおく)といふ二つの大きな山がありました。愚公は、自分の家が その山で塞がれて、他所(よそ)へ出て行くのにも面倒なので、この山をとりのけてしまはうと思ひましたそして子供たちをつれて、毎日箕(み)でもつてその 土を一ぱいづゝ、渤海(ぼつかい)へ運びました。すると智叟(ちそう)といふ人が、これを見て、大そう笑つて止めて云ふのに、
 『お前はもうすぐ死んでしまふやうな老人ではないか、死ぬまで働いたつて山の一毛(もう)もくづす事が出来ぬ。馬鹿な事は止(よ)すがよい』。
 と。愚公は嘆息ついて、
 『私は死んでしまつてもまだ子がある。その子が孫を生み、孫は又子を生むかうして子々孫々なくなるといふ事はない。しかし山の大きさは決して大きくなる ものでない。とればとるだけ減つて行く。だから子々孫々相ついでやれば何時(いつ)かは山がなくならぬといふ事はない』。
 といひましたので、智叟はだまつてしまひました。
 或る神様がこれを聞かれて、その事を天帝に告げました。すると天帝は愚公が熱心なのに大層感心なさつて、使に命じてこの二つの山をそれぞれ負うて遠くの 所へ持つて行かされましたので、山は直ぐなくなりました。
 世の中で、よく『才がある人だ』などいはれてゐる人の中には、智叟(ちそう)に似た人があります。又、愚公のやうな事をいふと『あれは馬鹿だ』などゝ悪 口をいふ人がまゝありますが、この愚公のやうな心であつたら、きつといつかは成功しられます。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/907526/38?tocOpened=1


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