2017年7月9日日曜日

トルストイの印度寓話13『鷺と魚と蝦』

トルストイ少年少女読本[3] 子供の智恵 米川正夫 訳 河出書房 1946 昭和21年

トルストイの印度寓話13『鷺と魚と蝦』
 或る池の傍に一匹の鷺が棲んでゐましたが、年を取つてしまつて、魚をとる元気がなくなりました。そこで鷺は、なんとかずるをして暮らす方法はないかと、 思案をし始めました。或るとき鷺は魚どもにかう言ひました。
 『お前さん達は、災難が降りかかつてゐるのを知らないんだね。わたしは人から聞いたんだけど、村の人達が池の水を落として、お前さん達をみんな取りつく さうとしてゐるんだよ。そこで、わたしはあの山のすぢ向うに、いゝ池があるおを知つてゐるから、お前さん方を助けて上げたいんだけれど、年を取つたから飛 ぶのが苦しくて。』
 魚どもはどうか助けてくれと、鷺に頼み始めました。
 鷺は言ひました。
 『それぢや一つ奮発して、お前さん方を運んで上げるとしようか、しかし、一どきには出来ないから、一匹づつだよ。』
 魚どもは大喜びで、『わたしを連れて行つて、わたしも連れて行つて!』と頼みます。
 そこで、鷺はみんなを運び始めましたが、くはへて原へ出すと、そのまゝ喰べてしまふのでした。かうして鷺は沢山の魚を喰べました。
 その池に年取つた蝦が棲んでゐました。鷺が魚を運び始めたとき、その魂膽を悟つてかう言ひました。
 『ねえ、鷺さん、今度はわたしも新しい住まひへ連れて行つておくれ。』
 鷺は蝦を咥へて飛んで行きました。原なかまで来ると、蝦を振り落とさうとしました。けれども蝦は原に落ちてゐる魚の骨を見ると、鋏で鷺の頸を締めて、た うたう殺してしまひました。そして元の池へ這つて帰り、魚どもにその話をして聞かせました。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1169127/13

露国民衆文学全書 第三編 ろしあ童話集  昇曙夢 大倉書店 1919 大正8年
ろしあ童話集トルストイ物語13『鷺と魚と蟹』

春陽堂少年文庫 トルストイ童話集 昇曙夢(のぼりしょうむ) 1932 昭和7年
トルストイ童話集童話篇13『鷺と魚と蟹』
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1168514/12

The Complete Works of Count Tolstoy Volume XII.
Fables for Children 1869-1872
by Count Lev N. Tolstoy
Translated from the Original Russian and edited by Leo Wiener
Assistant Professor of Slavic Langauages at Harvard University
Boston Dana Estes & Company Publishers
II. ADAPTATIONS AND IMITATIONS OF HINDOO FABLES

13.THE HERON, THE FISHES, AND THE CRAB
A Heron was living near a pond. She grew old, and had no strength left with which to catch the fish. She began to contrive how to live by cunning. So she said to the Fishes:
"You Fishes do not know that a calamity is in store for you: I have heard the people say that they are going to let off the pond, and catch every one of you. I know of a nice little pond back of the mountain. I should like to help you, but I am old, and it is hard for me to fly."
The Fishes begged the Heron to help them. So the Heron said:
"All right, I will do what I can for you, and will carry you over: only I cannot do it at once,?I will take you there one after another."
And the Fishes were happy; they kept begging her: "Carry me over! Carry me over!"
And the Heron started carrying them. She would take one up, would carry her into the field, and would eat her up. And thus she ate a large number of Fishes.
In the pond there lived an old Crab. When the Heron began to take out the Fishes, he saw what was up, and said:
"Now, Heron, take me to the new abode!"
The Heron took the Crab and carried him off. When she flew out on the field, she wanted to throw the Crab down. But the Crab saw the fish-bones on the ground, and so squeezed the Heron's neck with his claws, and choked her to death. Then he crawled back to the pond, and told the Fishes.
https://archive.org/stream/completeworksofc12tols?ui=embed#page/24/mode/2up


新訳伊蘇普物語: 上田萬年 訳 梶田半古 画 鍾美堂書店 明治40年11月 1907年
付録 ぱんちゃたんとら(一名印度御伽噺)
其五 鶴のはなし 
05a『鷺と蟹』 (鶴のはなし の挿話)
 むかし、ある森の中に、大きな池があつて、そこに大層魚が住んで居ました。しかるにその近所に、一疋の五位鷺(ごいさぎ)があつて、これわ大層年をとつ て、もう魚をつかまえて、食うことが出来ないほど老耄(ろうもう)して居ました。それで其の五位鷺が食う物がなく、ひもじさにせまつて、浜辺にうなつて居 ると、そこえ一疋の蟹が出て来て云うのにわ、『何故そうお泣きなさいますか』と聞いたのです。処が其の五位鷺が云うのいわ、『一体私(わたく)しわ、魚を 多く食い過ぎたものだから、今日わ、罪障消滅(ざいしようしようめつ)の為めに絶食(だんじき)して、神様え御詫(おわび)をしてる処である』と、殊勝気 (しゆしようげ)に答えました。蟹が重ねて、『なぜ罪障消滅のために、絶食をなさるのですか』と聞いたら、五位鷺の云うのにわ、『私(わたくし)も此池 (このいけ)の辺(ほとり)に生れて、今まで此処(こゝ)に住んで居るが、今年わ大旱魃(おおひでり)があるということだから、』とさもまことしやかにい えば、蟹わ『誰から其様(そんな)ことを聞いたのですか』と尋ねましたので、『とある天文学者から、聞いたのだ』と答えました。五位鷺わしばし無言で居ま したが、なお続けて云うにわ、『其大旱魃(そのおうひでり)が来ると、此池に生れたものや、又わ、此池の中を遊び回つて居るものわみんな、水がなくなつ て、日干(ひぼし)になつてしまうであろうが、私わその惨状を見るに忍びないから、それで、罪障消滅の為め絶食(だんじき)をして、その禍のない様に願つ てるのであります。しかし、この池に住んで居る魚共(さかなども)わ、なんにも知らずに居るので、それを思うと誠に気の毒で堪(たま)りません。』と云い ました。この五位鷺の話を聞いて、蟹わます/\喫驚(びつくり)して、其の事の趣を池の中の魚共に注進しました。サアいろ/\な魚共が寄つてたかつて、大 騒ぎをして、相談を為(し)ました結果、打揃(うちそろ)つて五位鷺の処え行つて、なんとかして助かる方法わありますまいかと尋ねました。

鷺と蟹
 
 すると、五位鷺の云うのにわ、『此処から余り遠くない所に、一(ひとつ)の大きな池があるが、其の池わどんな旱(ひでり)があつても干(かわ)くことの ない好い池ですから、それならそこえ、皆引移つたらよかろう。そえにわ私の背中を貸して上(あげ)るから、皆わ此(この)背中えお乗んなさい。そうすれ ば、私が直(じき)に向(むこ)うえ連れて行つてあげましよう。』と如何にも親切らしくいつて聞かせましたから、其池の中に住んで居る魚共わ、大層喜ん で、我先にと五位鷺に取り縋つて、四方八方から、私を先え私を先え、と頼みました。しかしながら、此五位鷺わ、それらの魚を背中に乗せるや否や、池の事な どわ丸で嘘で、少し遠方の大きな岩のある方え飛でいつて、其魚共を其の岩の上え抛り出して置いてわ、又とつてかえして、外(ほか)の魚共を運んで来て、さ て其後(そののち)心のまゝに、其れを食つて仕舞い、そうしてわ復(また)、もとの池に帰つて来て、『向うの池で先え行つた魚共わ、大層喜んで居て、早く 皆(みんな)にも来い』と云つて居るなどゝいつて、出鱈目の嘘をついて、皆(みんな)を喜ばせながら、一方にわ此の奸策(わるだくみ)で、楽に自分の食物 (たべもの)を求めて居ました。

 ところが、ある日のこと、前の蟹が、『鷺さん/\、一体今回(こんど)の事わ、私が一番最初に話をしたので、又お前も私にわ、大層やさしい言葉をかけて くれたのに、何故外の魚ばかりを先にして、私の方をば後にするのですか。私のことも何卒(どうぞ)早く助けて下さい』といつて催促したのです。五位鷺も腹 の中でわ、もう己(おれ)わ魚にわ食い飽きたから、今度わ一つ此蟹のかたをつけてやろうと思つていうにわ、『つい/\おそくなつて気の毒だが、今度わやつ とお前の番だ』と云つて、蟹を背負つて立ち上(あが)り、かの岩の近所に飛んで来た時に、蟹わ大きな目をむき出し、早くも魚の骨や皮の、山をなして居ると ころを見出(みいだ)して、少しも油断をしないで、五位鷺に尋ねるにわ『鷺さん/\、その池と云うのわまだ遠いのですか、お前わ私を負(しよ)つて、お疲 れでわないですか』と問いました。その時、五位鷺わ、これわ馬鹿な奴だ、水から出てわ、まるで弱い奴だ、とさげずんで、あざわらいながら、答えて云うのに わ、『何を云うんだ、そんな池なんぞが、世間にあるものか、己(おれ)わ自分の餌食を求める為め方便に、そういう事をいつたのだ、覚悟をしろ、お前も今己 が食つてやる』とおどし文句をいわせも果てず、蟹わ『このおいぼれめ、よくも皆(みんな)を騙したな』と両の鋏で、訳もなく鷺の首をチヨキ/\と切つてし まつて、其の長い首を引ずつて、よう/\の事で、もとの池えかえつて来ました。そうすると、そこに居る魚(うお)どもが喫驚(びつくり)して『蟹さん/ \、何故帰つて来ましたか。鷺さんわ、一体如何(どう)しました。』というのを聞いて、
蟹の云うにわ『五位鷺奴(め)わけしからん奴(やつ)で、池があるなんかと云つたが、それわ丸で嘘だ。こゝから遠くもない岩の上に、皆(みんな)を連れて 行つて、食つてしまつたのだ。私わ幸い彼奴(きやつ)の智慧にわだまされないで、却つて彼奴(きやつ)を殺して、其首を持て来たのだから、もう心配するこ とわない。これからわ皆(みな)さん安心して居て下さい。』と言いましたとさ。

Type231 TMI.J657.3 K815.14

パンチャタントラ アジアの民話12 田中於莵弥・上村勝彦訳 大日本絵画
Pan1.07『鷺と蟹(第六話の挿話)』

カリーラとディムナ  菊池淑子 訳 平凡社
Kali01.05.1『鵜とざりがに』

ラ・フォンテーヌ 寓話 今野一雄 訳 岩波文庫
Laf10.03『魚たちと鵜』


Aesop's Fables. Illustrated by Ernest Griset. 
With Text Based Chiefly Upon Croxall, La Fontaine,
And L'Estrange. Casssel, Petter, Galpin & Co. London, Paris & New York.

Ernest Griset286『鵜と魚たち』
  年老いて目がかすむようになって、水の底にいる獲物を見つけられなくなった鵜は、なんとか獲物を捕まえようと、策略を練った。
「お前さん、ちょっと聞いておくれ」彼は、水路の水面を泳いでいる鯉に話しかけた。「もし、お前さんが、自分や仲間のことを大切に思うならば、私の言う ことを知らせて下さい。この水路の持ち主が、今週中にも、水路を浚うのです」
  鯉はすぐさま泳いで行って、魚の総会でこの恐ろしいニュースを報告した。総会では、満場一致で、この鯉を鵜に対する使者として送り返すことが決定され た。この鯉の使命は、鵜が教えてくれた情報に対して感謝の気持ちをあらわすと共に、危険を知らせてくれたように、逃げ延びる方法も快く教えてくれるように と、嘆願することであった。
「わかりました、直ちに考えましょう」狡知に長けた鵜が答えた。「そして最善を尽くしてあなたがたが逃げるお手伝いをしましょう。皆で一斉に水面に集まっ て下さい。そうしたら、一匹一匹、私の住処へ運んであげます。そこはひっそりとした沼なのですが、私以外誰もその場所を知りません」
  無分別な魚たちは、この企てに諸手をあげて賛成した。こうして、狡猾な鵜により、壮大な移住が実施された。鵜は自分の目でも容易に見分けることの出来 る底の浅い池に魚たちを移した。こうして魚たちは、順番に貪り食われ、鵜の空腹と味覚を満足させた。
(ラ・フォンテーヌからの翻案)

ト ルストイの印度寓話対照表
トルストイの アーズブカ対照表
トルストイの アリとハト対照表